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〈90〉第5回特別講座【子どもにとっての絵本とは】

2022年10月30日(日)

 

第90回KBS@国立・第5回特別講座【子どもにとっての絵本とは】を開催しました。

特別講師は、斎藤惇夫先生です。第1回特別講座から6年ぶりに再登壇をお願いしました。

前回「10年続いたらまた来るよ」とおっしゃっていただきました。2020年度は1年間お休みしましたので、今年がKBS10周年です。お約束を果たしていただき、嬉しい限りです。何とか持ちこたえて頑張ってきた甲斐がありました。

 

親子の時間

最初は子どもと大人が一緒に過ごす親子の時間。

ご家庭や保育の現場で、どうやって子どもと触れ合って楽しく過ごすかを、実践してお見せする時間です。

今回は親子参加が少なくて残念でしたが、大人の皆さまにもご参加いただき、読み聞かせとわらべうたを楽しみました。

 

今まで泣いたことのない男の子が泣いてしまうなどのハプニングもありましたが、お父さんが上手になだめて、少し離れた座席からちゃんと参加してくれました。

子どもの製作の時間には、お父さんと離れても、とてもご機嫌で過ごせました。

読み聞かせの絵本は4冊。絵本にちなんだわらべうたと手遊びは2曲。
  • 『ちいさい はたけ』(福音館書店)
  • ♪ちいさなはたけ♪
  • 『どんどこどん』(福音館書店)
  • 『くだもの みいつけた』(福音館書店)
  • ♪もどろ もどろ♪
  • 『ももたろう』(福音館書店) 

斎藤惇夫先生講演

今回は、斎藤先生の特にお気に入りの4冊の絵本を中心に、福音館書店編集者時代の体験、息子さんとの思い出、絵本の舞台となった海外での経験などのお話を伺いました。

 

  1. 『ピーターラビットのおはなし』(福音館書店)
  2. 『もりのなか』(福音館書店)
  3. 『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)
  4. 『よあけ』(福音館書店)

 

1冊目は『ピーターラビットのおはなし』

 

余命わずかな少女に出会い、絵本を3冊贈ることになりました。

『ぐりとぐら』『もりのなか』ともう1冊をどうしよう、という時に、刷り上がったばかりの『ピーターラビットのおはなし』を、即席で製本してプレゼントしたそうです。

この逸話は、『子ども、本、祈り』(教文館)にも書かれています。

ピーターのそばに描かれるコマドリは、お話の中では言及されていません。

絵の中だけで、ピーターを見守るように存在します。

 

センダックは、コマドリはピーターの守護神と言ってるそうですが、斎藤先生は、信仰の証と感じるそうです。

 

同じようにコマドリが登場する物語に『秘密の花園』があります。

ピーターラビットは、絵手紙が元になっています。この元になった絵手紙のコピーを回覧させていただきました。

 

ピーターラビットは、当時様々な点で画期的な絵本で、それ以降の絵本の原点ともなっています。

 

・美しい絵

・絵が物語を語っている

・起承転結のあるストーリー

・子どもに安心感を与える設定

・行って帰るお話

 

この要素は多くの物語に影響を残しています。

  • 『ホビットの冒険~行って帰る物語』(岩波書店)
  • 『アンガスとあひる』(福音館書店)
  • 『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(福音館書店)
  • 『ちいさいおうち』(岩波書店)
  • 『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房)
  • 『もりのなか』(福音館書店)
  • 『しょうぼうじどうしゃじぷた』(福音館書店)
  • 『はじめてのおつかい』(福音館書店)
  • 『チムとゆうかんなせんちょうさん』(福音館書店)

これらの絵本で、海外の主人公は自発的に行動し、日本の主人公は受動的に行動しているようです。

ピーターも、禁止されたにも関わらず、危険なマクレガーさんの畑に行きます。

19世紀という女性に厳しい時代の作者のポターが、何とか自活したいと奮闘した行動力に通じます。

 

 

2冊目は『もりのなか』

 

夜遅く仕事で疲れて帰ると、息子さんが起きてきて「絵本読んでよ!」と何を言っても繰り返したそうです。

キレてしまった先生が「一体どんな本を読んでほしいっていうんだ?」と言うと、

「嬉しくって楽しくなっちゃうやつ!」と泣きながら叫んだそうです。

 

それ以降その言葉は、斎藤先生の、またそのお話を聞いた赤羽末吉さんの、絵本の定義になったそうです。

 

そして読んであげたのが『もりのなか』だそうです。

当時息子さんのお気に入りは『おさるのジョージ』だったそうですが、長過ぎるので、というのが選んだ理由だそうですが。

 

『もりのなか』は、子どもと大人では違う世界を見ているようです。

何度も読み聞かせするうちに斎藤先生が書かれたのが、『「もりのなか」のかわいそうなお父さんの話』です。

斎藤先生が、息子さんの遊ぶ姿をあたたかく見守っているようなお話です。

 

3冊目は『三びきのやぎのがらがらどん』

 

この絵本を出版する前後にノルウェーまで出かけられた体験を伺いました。

 

ノルウェーでは、お父さんが毎日子どもに昔話を語るそうで、バスの運転手さんにノルウェー語で『三びきのやぎのがらがらどん』を語ってもらったそうです。

マーシャ・ブラウンの絵はすばらしいけれど、いくら何でも青が過ぎる気がしたそうです。

でも、ノルウェーでは、氷河が解けた水が、まさにこんな色だそうです。

 

がらがらどんが登ったような、山の写真、トロルがいそうな川の写真なども見せていただきました。

日本の子どもたちは、イギリス、ドイツ、ロシアなどの昔話は聞いていましたが、『がらがらどん』で初めてノルウェーの昔話を知ることになります。

 

『ねむりひめ』(福音館書店)
『おおかみと七ひきのこやぎ』(福音館書店)
『てぶくろ―ウクライナ民話』(福音館書店)
『てぶくろ』の絵を描いたラチョフが来日した際の講演で、最後に出てくるクマはロシアのことだと言われたそうです。
今の状況に通じるお話でした。

ノルウェーだけでなく、『ピーターラビット』はイギリスの湖水地方、『げんきなマドレーヌ』はパリ、『かもさんおとおり』はボストンと、絵本は子どもたちを世界中に連れて行ってくれます。

4冊目は『よあけ』

 

編集長時代、どうしても日本版を出したいと思ってた時、こんな大人向けの絵本は子どもには無理だと周囲に反対されたそうです。

瀬田貞二さんに原書を見せると、気に入って一晩で翻訳し、「これは柳宗元(りゅうそうげん)の詩漁翁(ぎょおう)』の話だね」と教えられたそうです。

 

息子さんに読んで反応を見ようと思ったら、何の反応もなく、やっぱり無理か、とあきらめかけた時、息子さんはボロボロ涙をこぼしながら「僕を自然の中に連れて行って」と叫んだそうです。それ以降、息子さんの座右の書になったそうです。

 

赤羽末吉さんもこの本を気に入り、「日本人が作るべきだったよね」と言われたので、「それじゃあ作ってくださいよ」と頼んだら、『つるにょうぼう』が生まれたそうです。

 

斎藤先生の最近のお気に入りは、KBS第2回特別講座の講師・北野佐久子先生の『物語のティータイム』(岩波書店)だそうです。

幼稚園の保護者にも推薦しているそうです。小学校に進学した子どもたちは、物語を読んで、この本でお菓子やお料理を自分で作るそうです。

 

『ピーターラビット』で、翻訳をしたのが石井桃子さん、物語の背景を紹介したのが吉田新一さん、味覚や風習などを紹介したのが北野佐久子さん、と話されていました。

 

最後の質疑応答で、専門学校で講師をされている方からご質問がありました。

「絵本や物語の体験をまったくしてこなかった生徒がほとんどですが、どうしたら良いでしょう?」

先生の回答は、「読んであげるしかありません。大変でしょうが、先生がひたすら読んであげてください。大人になっても、聞く喜びがわかると変わるはず」

 

いくつになっても、読んであげることが一番なんですね。

配布資料

2016年の第1回特別講座では、斎藤先生ご推薦の本174冊を分野別にご紹介した資料を配布しました。

今回は、先生の近著『子ども、本、祈り』で取り上げられた本を追加すると共に、所々、本に関する文章を引用させていただきました。
読み聞かせ絵本5冊、斎藤先生の作品12冊と、斎藤先生ご推薦の小学生までに読んでほしい絵本・児童書202冊、絵本と子育てについて学びたい大人の本44冊、合計263冊の本をカラー表紙画像でご紹介しています。

0歳から小学生対象の絵本・児童書だけでなく、子どもに関わる大人はぜひ読んでおきたい本が満載です。